新宿の「成覚寺」にお地蔵さんを訪ねる。

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新宿区新宿二丁目にある浄土宗の成覚寺は、文禄3年(1594)の創建です。
内藤新宿の飯盛女(遊女・子供ともいう)が死ぬと、この寺に葬られたことから「投げ込み寺」とも呼ばれます。
今回は、お地蔵さん巡りで訪れました。
門を入るとすぐ左側に旭地蔵があります。

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旭地蔵

旭地蔵は、もともとは、寛政12年(1800)甲州街道から新宿天龍寺へ向う途中にあった玉川上水を渡る橋の北岸に建てられたものです。明治12年(1879)7月、道路拡張のため、成覚寺に移されました。
野村敏雄著『新宿裏町三代記』(青蛙房出版)に「明治30年代追分絵図」が載っていますが、そこに旭地蔵が描かれています。

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明治30年代追分絵図」

移動が明治12年だとすると、その時はもうないはずですが、おそらくこういう位置にあったのだろうと思います。 (一般的な案内でも、旭町(新宿四丁目)の雷電稲荷神社の横、玉川上水の縁に立てられていたとあります)。
「三界万霊旭地蔵」と刻まれた台座に露座しています。高さは、約90cm。寛政12年(1800)に造られました。

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台下をみると、18人の戒名が刻んであります。7組の男女の戒名は、一組ずつ並べて彫られていて、情死者(心中)であったとされます。たとえば定吉二七歳、かね一七歳などとありますが、町人と内藤新宿の飯盛女ではなかったかと考えられています。
寛永12年(1800)から文化10年(1813)の年号が読み取れます。
地蔵の左側に、移転供養をした旅籠屋一同の名前が刻んであり、当時の復元の参考とされています。

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また、別名「夜泣地蔵」とも呼ばれて、お参りすると子どもの夜泣きがなおるというので信仰されていたという話も伝わっています。

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六道地蔵です。マスクが引っかけられていました。牡丹も咲いています。

こちらは六道地蔵です。
六道地蔵は、六道、すなわち地獄(じごく)・餓鬼(がき)・畜生(ちくしょう)・修羅(しゅら)・人間・天上のそれぞれにあって、衆生(しゅじょう)の苦悩を救済する地蔵菩薩(じぞうぼさつ)のことです。
地獄の向かう亡者をこの世と冥土の境界で冥界の王・閻魔(えんま)が生存中の業の履歴が記された閻魔帳により、どこに送るかを評定して判決を下します。
日本の仏教においては、閻魔は地蔵菩薩の化身とみなされ同一視されています。

また、閻魔が地蔵菩薩に変化し、人間界の様子を見て裁きを決めるという話もあります。
これは、平安時代末法思想、地獄に堕ちる恐怖から生まれた思想のようです。「極楽往生できない者は皆地獄行き」と信じ込んだ一般の衆生にとってはまさに、地蔵菩薩は、救いの仏だったわけです。
日本では平安中期以来、六地蔵の信仰が盛んになり各地、各所に六地蔵が安置されました。
ます。六地蔵は、寺院・路傍・墓地などに祀(まつ)られた六体の地蔵や、あるいは地蔵堂に祀られたもの、六ヵ所の寺院や堂に安置されるもの、また各所の地蔵尊のうちから六ヵ所を選んだものなどがあります。また石灯籠などに6種の地蔵を刻んだ場合などもあります。

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成覚寺の六地蔵。一番左が地獄の「壇陀(だんだ)地蔵」、最後が「天上」の「日光地蔵」。

草木の茂っていないころに撮った写真です。

では、六道の世界とその世界に存在する 地蔵尊の役割を簡単にご紹介してみましょう。

「地獄」の世界は、六つの世界でも一番苦しみが多い世界です。
ここには 「壇陀(だんだ)地蔵」がいて右手に持つ錫杖によって煩悩を払ってくれます。
「餓鬼」の世界は、嫉妬や欲望の塊がある世界です。
この世界には 「宝珠(ほうじゅ)地蔵」がいて、願いを授与してくれます。
「畜生」の世界は、弱肉強食で殺傷が行われる世界です。
この世界には 「宝印地蔵」がいて、幡(どう)を持ち人々に信仰心を教えてくれます。
「修羅」の世界は、怒りに我を忘れて戦いを繰り返す世界です。
この世界には 「持地(じじ)地蔵」がいて、合掌をして落ち着きと知恵をさずけてくれます。
「人間」の世界は、生病老死の四苦八苦がある世界です。
この世界のには「除蓋障(じょがいしょう)地蔵」がいて、数珠を持ち、恐怖心を取り除き、安らぎを与えてくれます。
「天上」の世界は、人間の世界よりも楽が多く苦が少ない世界です。
日光地蔵は、柄香炉持って、安息を表しています。

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六地蔵の「日光地蔵」の右上に貼られた、成覚寺の説明です。

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無縁仏を弔う無縁仏像。その中にたくさんの地蔵菩薩があります。

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永代供養塔とあります。(卒塔婆の意味がわかりませんが、立派です)。

奥の墓所にもお地蔵さんがおいでになるようですが、それはまたの機会に。

成覚寺のお地蔵様でした。